「この国の始まりは英雄王と呼ばれる初代国王陛下のロータス・ベルウッド様が現在の王都周辺に点在していた各民族の集落を統一したことです。初代様は国名をペンドラゴンとし、初代様ご自身はロータス・ベルウッド・ペンドラゴンと名乗りました。」 初代様の名前くらいなら覚えているんですけれど……。初代様の名前は畏れ多いからと貴族の名前に使われておりませんしね。ペンドラゴンは国名ですし、ベルウッドは王家の家名。いくら最後に勉強したのが死ぬ数年前とはいえ"ロータス"という単語はちゃんと頭に入っていますもの。 「お嬢様、心ここに在らずといったご様子ですが、ちゃんと聞いていますか?」 「もちろんですわ!それにそれくらいならわたくしも知っておりますし、よゆーのよっちゃんですわ。」 ま、まぁ?それが誰の名前かを今思い出したことは否定しませんけれど。 「初代様は数々の画期的な発明をしたことから近代魔道具の父とも呼ばれています。魔道冷蔵庫や魔道レンジ、魔道コンロといった魔道具も初代様の発明品です。その独特な名付けも有名です。」 レンジってなんなのかしら。どうして魔道加熱箱みたいな名前じゃないのか不思議ですわね。それに冷めた食べ物を温める時に便利ですけれど、何からこの道具の着想を得たのかしら。 「それ以外にも数々の逸話があるため我々と同じ人間ではないんじゃないかと言われています。今も初代様の出自についてはよくわかっていないのもあります。突飛なものだとこことは違う世界からやって来た異世界人だなんて説もあります。一番有力なのは預言者説ですね。」 はぁ……この初代様オタクは説明がくそ長ぇですわね。初代様の出自に関しては異世界だの預言者だの未来人だのバカバカしいですわ。古代人の生まれ変わりに決まっておりますのに。未来人だとその方が過去にいる時間軸の未来にはその方が存在しないという矛盾が生まれてしまうといいいますのに……。 ふわぁ……あまりの長さに眠たくなってきてしまいましたわ。 あれ?わたくしは……
メイド長怖すぎですわ。無事乗り切ったことですし忘れることにしますわ。このままですとわたくし、メイド長と目が合った瞬間に動けなくなってしまいそうですもの。 貴族令嬢たるもの優雅であれだのとうるさいんですのよね。「武芸に傾倒するのは結構ですが、いい加減勉学にも励んでくださいまし!」とか何度も何度もしつけぇんですのよね。王立学園の卒業は貴族の義務とされていますけれど……ぶっちゃけめんどうですわ。バックれる方法とかあればいいんですけれど。はぁ……。「嫌ですわ!勉強なんて最低限でいいではありませんか!どうして窓のない部屋に閉じ込められてまで勉強を強制されなければいけないんですの!わたくしは腐っても辺境伯家の令嬢ですわよ?こんなのおかしいですわ!いい加減にしてくださいまし!」 ノブレス・オブリージュというのもありますし、貴族たるもの武芸だけでなく勉学においても研鑽を積むべきというのも理解はしているつもりですの。だが断r……お断りですわ!このわたくしの最も嫌いなことの一つは他人に指図されことですの!「おかしいのはお嬢様の方です!なんで歴史の勉強からそうまでして逃げるんですか!窓がないのもお嬢様のこれまでの行動の結果です!何度も何度もお嬢様が窓ガラスを突き破って逃げるからです!鉄格子を付けてもそれごと突き破りますし……いい加減にして欲しいのはこちらです!」 それで窓があるのが悪いという考えに至りましたのね。それはわたくしが悪いのかもしれませんわ。「歴史の勉強が大事なのはわかっていますわ。過去の事例の起きた年まで把握する必要はないと思うんですの!どういう条件の元でそれが起きてどのような影響を及ぼし、どういった方向で解決したのか……それさえ分かればいいではありませんか!過去から学び今に活かすというのはそういうことだとわたくしは思いますの!ていうかアレなんなんですの!似たような名前が多い上にどいつもこいつもクッソ長い名前を名乗りやがるのは後世を生きるわたくしたちに喧嘩でも売っているのかしら?」 なんなんですの!アメリアという名前の方なんて学び始めの今の段階で47人はいますわよ!アルバードという名前の方は106人?しかも同じ血族の方もいますし……。実は皆さん頭悪いんじゃありません?「はっきりと申し上げましょう。お嬢様の言う通りです。ですが、これはあくまで学園入学のため。
次の一撃で模擬戦を終わりにするとは言いましたけれど……どの技にするべきかしら。 わたくし、技名覚えるの苦手なんですの。我流という建前のもと適当に技名を言って乗り切っていましたけれど……ぜんっぜん良い技名が思いつきませんわ!そもそも狙いをどこにすべきかしら。メイド長に見られている以上変なことはできませんしどうしましょう。あぁどうしましょう。 男性のナニを切るのはやはりお下品でしょうか。となると首?うっかりスパッとやってしまいそうで怖いですわね。そもそも血を被ってはきっとメイド長に怒られますし大事をとって流血しないように…… 柄!柄で殴れば血は出ませんわよね!正面からやれば嘔吐物がかかってしまって流血の二の舞ですし高速で移動しながらすれ違いざまに背中に剣の柄を撃ち込めば……大丈夫そうですわね!やったことはないですけれどなんとかなりますわよ!なんてったって未来の剣姫ですもの! この間、0.7秒である。「それでは……行きますわよ!」◇◇ 合図とともにお嬢様が消え……背中から衝撃!?「我流 断罪。」「カハッ……俺の勝ちですお嬢様。」 ギリッギリではあったが剣を杖にして立っている俺の勝ちだろう。死ぬかと思ったがお嬢様の手加減のおかげで生き残った。主君のご令嬢であるアビゲイルお嬢様は本来俺たち騎士団が命を賭して護るべき存在。「ワタクシハタイサンイタシマスワ!!」 そのお嬢様に手加減をされた上でのこの満身創痍という状態。団長として不甲斐ない限りだ。我流断罪とは恐ろしき技であった。それでも俺は生きている。今は事実に感謝するとしよう。「お嬢様。遠征中の無礼な発言、大変申し訳ございませんでした!そしてこの護るべきお嬢様に手加減をされてしまったこの事実を恥、これまで以上に鍛錬を積んでいく所存です!」「団長、お嬢様もういないっす。」「へ?」 逃げるアビゲイル。そして、取り残された騎士団長ガウェイン。 アビゲイルは無事にメイド長から逃げ切ることができるのか。そして、更なる鍛錬を決意したガウェインはアビゲイルの境地に近付けるのか。そして、二人がもう一度戦う日はやってくるのか。 それは……神にもわからない。
おいおいこのお嬢様もしかしなくても俺のこと本気で潰しにきてねぇか?おっと!的確に急所を潰しにきてやがる!多少の欠損程度なら魔法で治るとはいえ一度潰れたらトラウマで不能になるんだぞ!腕とかなら治れば機能も復活するけどよぉ……ソコは治らねぇんだぞ! 「ちょ、お嬢様?俺のっ!大事なっ!息子をっ!潰そっ!としないっ!でくれまっ!せんかねぇ!」 殺気ダダ漏れだしよぉ。いやね?俺も幼いとはいえレデイ相手に婚期の話のはまずかったかもしれねぇけどよぉ。あ、化け物って言ったのもまずかったか。でもよぉ、血に濡れながら淡々と魔物を殲滅していく子供がいたらそりゃ怪異の類だろう?悪かったとはもちろん思ってるぞ?でもこんな殺気垂れ流しながら急所狙いで攻め立てんでもと思うわけよ。 あぁ……でもあれか。客観的に見れば騎士が公爵クラスの貴族のご令嬢相手に化け物とか言ったつう事案なわけだが……普通に考えたら一族郎党あの世行きだな。それを殺気丸出しとはいえ模擬戦で許してくれるんだから十分温情をかけてくれてんのか。こりゃ……死んだか? いやでも流石に俺は団長だしな。チョン切られる女の子にされちゃうなんてことにはさすがになら……なら……なるわこれ!お嬢様が満足するか当主様が覗きに来て止めるまで耐久するしかないんだけど無理そうなんだよなぁ。 ◇◇ にしてもこいつこの辺境伯家の騎士団で団長してるだけあってクソ硬ぇですわね。いくら手加減してるとはいえここまで耐えるとは予想外ですわ。耐えられてるのはムカつきますけれど、加減をミスってうっかり殺したらさすがに父様に怒られますし不用意に人を殺す趣味などありませんもの。 「いい加減くたばりやがれですわ!」 あ、お母様かメイド長はいませんわよね!聞かれてませんわよね!な、な、な、な、な、なんでメイド長が騎士たちに混じっていますの!?こ、これは模擬戦が終わり次第逃げる必要がありますわね。 逃げたところであとで再教育が待っている気がしますけれど……わたくしは今を生きるのですわ!あとのことは未来のわたくしに任せてしまえばいいんですもの! そうと決まればメイド長の目が怖いですしさっさとこの模擬戦を終わらせてトンズラこいてやりますわ! 「騎士団長、次の技を受けて立っていられたら許して差し上げますわ!せいぜい痩せ我慢でもしてくださいまし!」
「おいこのノンデリ野郎、わたくしの獲物を取ったら殺しますわよ?」 全てはわたくしの成長の糧。わたくしの獲物は強大。故に奴らを狩るまでは一匹たりとも譲ることなどできませんの。 『ノンデリ野郎とは俺のことですかな?それは失礼しました。お嬢様の傷口に塩を塗るなど臣下としてあるまじき愚行。申し訳ございません。』 「気にしてなどいない。あくまで一般論だ。魔物は全てわたくしの獲物ですので悪しからず。」 『一応これは我々の訓練も兼ねているので多少は回していただけると助かります。』 「考えておきますわ。」 考えておくと言っただけなのに……。その場を流すために適当に答えただけだというのにあのクソ野郎は! 『はははははっ!こんなに魔物を騎士団に回していただけるとは助かりますなぁ!まさか、お嬢様ともあろう方が取り逃してしまったなんてありませんよね?我々に回しただけですよね?』 「あ゙ぁん?」 『ははははははっ!』 何度このノンデリ野郎をぶち殺してやろうと思ったことか……。絶対潰す。ノンデリ野郎のノンデリ野郎を再起不能にしてやる! ◇◇ そんなこんなで騎士団に帯同しての初魔窟遠征は何事もなく終わってしまった。非常に残念ながらなんのイレギュラーもなく終わってしまった。ノンデリ野郎と言い争ったあと、強い魔物の気配を探しはしたのだが成果はなし。 ノンデリ野郎との口喧嘩による鬱憤とクソザコナメクジとしか戦えないストレスを晴らすためにサーチアンドデストロイで八つ当たりし続けたのだが、一向に気は晴れないまま日程が終了。ノンデリ野郎との共闘で返ってストレスが溜まる結果となった。 もうこれはノンデリとの模擬戦で半殺しにしてストレス発散するしかない。すなわち……徹底的に潰す! 「お前を殺す。」 つい?うっかり?不注意で?本音がポロリしちゃったのもしょうがないですわよね。全部あのクソ野郎が悪いんですもの。ノンデリ野郎のノンデリ野郎には責任を取ってすり潰されていただくしかありませんわね。なんてったって悪いのはあの男ですものね! このわたくしが直々に潰してやるんですもの。感謝して死になさい。男として。
もう死んだ魔物にぶつくさと文句を言いながら魔物の解体を進めるアビゲイル。弱いとは一応は魔窟の魔物、その魔力を吸収しないのは少々もったいないのだ。故にアビゲイルは弱い弱いと言いつつも魔物を食べるために解体をする。 だが、その際の返り血を気にしていなかったため、唯一我を失っていなかった騎士団長は思わず失言をしてしまう。(アビゲイルは長らく一人で狩りをしていたため解体時の汚れには無頓着だった。) 『おいおい、こいつぁ化け物かよ……』と。 「淑女相手に化け物は不躾ではなくって?」 やれやれ、本当に団長は淑女に向かってなんてことを言うんですの!そんな化け物扱いをされるとさすがのわたくしも傷つき……傷つ……別に傷つきはしませんわね。わたくし相手だから良かったものの一人の紳士として最低ですわ! 今回は6歳児が返り血を浴びながら解体してる様を見て団長は化け物と言ったのである。わたくしだから良かったもののとアビゲイルは言ったがそもそもそんな状況は普通なら起こらないのだ。相手がアビゲイルだったからこそ起きたイレギュラーと言えよう。こんな幼女がそう何人もいてたまるか。 『失礼いたしました、アビゲイルお嬢様。』 「そんなんじゃモテませんわよ。」 『うぐっ…………』 見当違いなことを考えていたアビゲイルだったがここに来てクリーンヒットである。この言葉は年齢イコール恋人いない歴の団長に対してはあまりに鋭い言葉であった。ただただ団長が哀れだ。 『お、お嬢様こそもう少しお淑やかな行動を心がけた方が良いのではないですか?我々のような武闘派ならともかくお嬢様の婚約者候補となるのは貴族です。その大多数はお嬢様の嬉々として魔物を狩って解体する様を見て怖がりますよ?血が苦手な方もいっぱいいらっしゃるでしょうね。』 「うぐっ…………」 恋人がいないのはやり直し前のアビゲイルもであった。自らの研鑽に明け暮れる日々。異性とは男女の中というよりは好敵手、もしくは戦友のような関係であった。 そんな脳筋組以外にも彼女の戦闘を見るまでは好意を持つものは数多くいたのだが、彼女の戦闘を見るとドン引きして好意を持ったもの全てが脱落するのだった。彼女のそしてアビゲイル、どちらかと言うと同性にモテるタイプなのである。 彼女の強さと優しさに惹かれて告白する者も多くおり、戦闘を見